#kaidan1 真下の住人(つぶやき怪談ver)Junji_Inagawa presents

稲川さん ハンパねーす


http://twitter.com/Junji_Inagawa


みなさん、おはようございます。稲川淳二です。
「つぶやき怪談」は、来週ぐらいの予定だったんですが、いやー、みなさんにこんなに期待されていると、ちょっとでも早く始めなきゃと思って、急遽早めることにしたんですね。
いよいよ今日、「つぶやき怪談」を始めますよ。
みなさん、こんばんは。稲川淳二です。今から始まりますよ、いやー楽しみですね。
私がつぶやいているのを皆さんが見ていると思うと、ライブとまた違った感動がありますよ。でも、同じ時間を共有しているんですよね。不思議ですよね。
もしかしたら、言葉や生活習慣の違う海外の方とかも、遊びに来ていただいてると思うと、んー、日本にいながら世界の方と繋がっている、と思うといやーほんとに、感激です。
私の怪談で、少しでも楽しんで頂ければ嬉しいですよ。怖・楽しいそんな時間を共有しましょう。
それでは、そろそろ始めましょうか。怖・楽しい時間を、一緒に、共有しましょう。

これは、ある男の人の話なんですが、仮にカトウさんとしておきましょうか。この方、物がふえて、部屋が狭くなったので、「もう少し、広いところへ越したいなぁ、それも、できれば、住み馴れた今と同じ、JRの駅の近辺だったら、あれこれと都合がいいんだけどなあ」
と思っていたら、ちょうどいいマンションが見つかった。
それは、今、自分が住んでいるJR駅の、にぎやかな方、南口とは逆の、まだあまり開けていない、北口にあった。
今のところより、広くて家賃も安い部屋があったので、早速、引っ越した。駅までの距離も前とそう変わらないから、出勤時刻も変わらないし、物もすっきりと片づいて、以前よりも、いくらか快適な生活が始まったわけですよね。
そして、一ヵ月ほどたった夜中の事、疲れて眠っていると、突然、
プルルル、プルルル、プルルル、
電話が鳴った。夜中の電話って驚きますよね。
そんな時刻に、電話がくるという事は、なにか、よほど緊急を要する事が起こった場合で、不吉なものを感じるじゃないですか。
あわてて電話に出ると、『—もしもし、下のアサノですけど、ヤスコお邪魔してますか』という、かすれた低い女の声がした。間違い電話だ。冗談じゃない、こっちは眠っているのに。
突然起されて、何かあったかと思って、一瞬びっくりしたわけだ。そうでなくても、ふだん部屋の電話なんか、かかってきやしないんです。最近は、ほとんど携帯で用が足りてる。掛けてくるとすれば実家の親くらいですよね。
まったく迷惑な話で、どうやら、マンションの下の階の住人が、上の階の部屋に遊びにでも行っている娘に、「もう遅いから帰ってきなさい」というような電話なんでしょう。
冗談じゃない、さすがにむっとしたんで、「うちはカトウですけど、どちらへおかけですか?!」ときつい口調で言うと、『すいません』と先方が謝って、カチャッと切っちゃった。
「何だよ、参ったな」
「下のアサノですけど」と言われた瞬間、もしや苦情の電話かと思ってドキッとしたんですよね。「まあ、しょうがない、たまにはこんな事もあるだろう」と、蒲団にもどった。
それから2日ほどして、一階のロビーにある郵便受けから、たまっている郵便物を出していて、見るともなく、何となく、
「自分の真下の部屋の住人は、なんていう人だろう?」と思ってふっと見た。すると、下の402号室には、ネームプレートが入っていない。
「あれ、おかしいなぁ…真下の部屋は人がいないのかなぁ」と思った。しばらくして、真下の部屋が、もうかなり前から空き室のままになっているということを知った。
それから何日かたって、夜中に、
プルルル、プルルル、プルルル、
電話が鳴って、起こされた。何事だろうと、急いで、電話をとると、受話器のむこうから、
『もしもし、下のアサノですけど、ヤスコお邪魔してますか』
と言う、かすれた低い女の声がした。
「何だ、また、あの女が間違い電話を掛けてきたのか」さすがに、カトウさん、腹に据えかねたんで、「うちは、カトウなんですけどね、お宅、間違い電話、これで2回目ですよ、迷惑してるんです」と言うと、
『すいません』と女が謝って、電話が切れた。
「冗談じゃねえなあ」と思った。
どこかのマンションに、たぶん、自分と似たような電話番号の人がいるんでしょう。でも、夜中ですからね、きちんと番号を確かめて、掛けるのが常識だろう、と腹立たしく思ったわけだ。
その翌朝会社に出勤するんで、1階に下りてくると、ちょうど管理人さんと、ばったり顔が合ったんで、挨拶がてら、別に話すつもりもなかったんですが、ついつい、愚痴をこぼすともなく、話をしたんです。
「参りましたよ。夜中に間違い電話で起されて、これで2度目なんですよ。それも、前と同じ人からで、出ると、低いかすれた女の声で、『もしもし、下のアサノですけど、ヤスコお邪魔してますか』って言うんですよ。
冗談じゃない。こっちは何事かと、あわてて飛び起きて、出ると間違い電話なんですから。どこかのマンションの人が、上の階に遊びに行ってる娘に、もうお遅いから帰って来なさい、というんで、掛けたんでしょうけど、私のところと、似たような電話番号の家があるんですね」
と話すと、聞いていた管理人さんの顔色が、みるみる変わっていったんです。「あれ? どうしたんだろう・・・何か様子がおかしい!?」
と思っていると、管理人さんが、
「実はですね、以前、このマンションに、若い母親と幼い女の子の母子が住んでいましてね。母親は駅の南口にある店で、夜遅くまで、客相手の仕事をしてたんですよ。
で、その間はというと、この幼い女の子が、ひとりで留守番するわけなんですが、そんなときには、真上の部屋の老夫婦が、この子をかわいがっていましてね、母親が帰って来るまで、面倒を見てくれてたんですよ。
だから、女の子は母親が仕事に出ると、お年寄り夫婦の部屋へ、遊びに行ってたんですよ。母親が帰ってくると、下の自分の家へ戻っていくんですがね、たまに、老夫婦のところで寝ちゃうらしいんです。そんなときには、母親が迎えに行って、女の子をかかえて帰っていましたがね。
ところが、あるときなんですが、この日は、老夫婦が親類に用事があって、出かけていて留守だったんですよ。幼い女の子は行くところがないもんですからね、この日は自分の家で、ひとりで留守番していたんですね。
さぞや、母親の帰りを待ちわびていた事でしょう。そろそろ母親が帰ってくる時間になると、待ちきれずに、バルコニーへ出て、帰ってくる母親の姿を見ようと思ったんでしょうね。
手すりにつかまって道を見詰めているうちに、たぶん、知らずしらずに身を乗り出してたんでしょうかね、
何かのかげんで、あやまって落ちてしまったんですね。
やがて母親が帰ってきたんですが、娘の姿がないもんですから、いつものように、真上の部屋の、老夫婦のところに電話をかけると、通じない。
その日、老夫婦が留守なのを思い出して、慌てて、あちこち捜しまわったんですが見付からない。
そして、バルコニーへ出てひょいっと下を見たらば、コンクリートのたたきに横たわっている、我が娘を見つけたんですよ。急いで駆け付けて、抱き上げた時には、もう既に事切れてましてね。
この事故が、よっぽどショックだったんでしょうね。それ以来、すっかり酒浸りになってしまって、
そして、ある日、部屋のガスの元栓を開けて、亡くなったんですよ。
「遺書はなかったんですけど、誰が見たって、自殺だと思われるものでしたがね。その若い母親というのが、アサノヨシコといいましてね。幼い娘さんがヤスコちゃんといったんですよ」
という話を聞かされて、カトウさん、ウワッ!と思った。さらに、管理人さんが、
「その上の部屋の老夫婦なんですがね、それからしばらくして、このマンションを引き払ったんですよ。
やっぱり、孫のようにかわいがっていた幼い女の子が、そういう形で亡くなったのが、辛かったのと、自分たちがいなかったので、死なせてしまったという罪の意識があったのかもしれませんがね。
ただ、老夫婦が引っ越すときに、親しい人に、
『夜中に電話が来る』
と言ってたそうです。
その部屋が、今、貴方が入っている、部屋ですよ」と言った。
それを聞いて、カトウさん、ぞ~~っとした。全身から、みるみる血が引いていくのがわかった。
「待てよ、ということは、自分のところへ掛かってきた電話のあの声、あの女の正体というのは、生きている人間じゃなかったのか。」自分は死んだ女の霊と話していたのか—-。おいおい、よせよ—、勘弁してくれよぉぉ・・・
言いようの無い恐怖に声も出なかった。
「聞くんじゃなかったなァ」と思った。
こうなると、すぐにでも、どこかへ引っ越したい気持なんですが、なにしろ、まだ引っ越して来たばかりなんで、また、おいそれとは引っ越しできないので仕方なく、恐る恐る、夜をむかえたんですよ。
1日、2日と経って行くんですが、電話はいっこうに鳴らない。「どうやら、自分がきつく言ったから、もう、電話を掛けてこないのかなあ」と思った。そして日が過ぎていって、ある晩、ぐっすり眠っていると、夜中に突然、
プルルル、プルルル、プルルル、
電話が鳴って、思わず飛び起きた。「きた。とうとう電話がきた。あの女に違いない。いや、女の霊がかけてきたに違いない」。全身がブルブルと震えて、ジト~っと汗ばんできた。
「そうか、死んだ女の怨念は、霊となって、今も真下の階の部屋にいるんだ。そして、自分の部屋の下から、電話をかけてきているんだ」と思った。
プルルル、プルルル、プルルル、プルルル
電話が鳴り続けている。出るわけにいかない。どうしよう?耳を両手でふさいで、じーっと止むのを待つしかない。電話は、
プルルル、
プルルルル、
プルルルルル、
プルルルルルル、
プルルルと、なおも鳴り続けている。
「出るまで、ずっと鳴り続けるんだろうか?勘弁してくれぇ~」と思った途端、ふっと鳴りやんだ。
「ああ、やんだ—-。やっと、やんだ・・・。」
張りつめていた神経が、ふっとゆるんで、一瞬、気が抜けたようになった。「ああ、助かった」と思っていると、不意に、
キンコーン、
キンコーンー、
玄関のチャイムが鳴ったんで思わず、「はい!」と返事をすると、ドアの外から、
『—アサノですけど、ヤスコお邪魔してますか—』という、かすれた、低ーい女の声がした。どうやら迎えにきたらしい…。
「真下の住人(つぶやき怪談ver)」いかがでしたか?怖・楽しい時間を、楽しんで頂けましたか?ちょっとでも楽しんで頂ければ、嬉しいですよ。冬のライブも始まりますので、よかったら足を運んで下さい。それじゃまた。

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